プライド 第28話
2013年 09月 23日
*2007年10月 日本*
私たちが付き合うようになって2年と数ヶ月が経ち、私は就職活動を始めている。
高2の夏休みのホームステイで、自分の拙い英語を駆使してコミュニケーションをとった日々はとても楽しかった。だから、外国語を勉強して色んな人とお話したい…という安直すぎる理由で外大に入ったため、特にやりたい仕事もない。
外大にいるから外国語はそこそこ話せるけど(英語だけ。専攻のドイツ語は目も当てられないレベル)、語学を活かしやすい商社で働きたいとは思わない。
あ、そもそも私のレベルでは商社なんて絶対に無理だけど。
この時期になって、私は自分の進路をどうしたいのかをウジウジと迷うようになっていた。
そんな私とは対称的に、ユチョンは順調に日本でも認められていっている。
私が去年の全国ツアーの時に予感した通り、今年は武道館でライヴをしてしまった。ユチョンによると、来年はアリーナツアーをするかもしれないらしい。
自分の進路すらまともに決められない私とは、本当に対称的だ。
一言で言うと、順風満帆。
でも…最近、私たちはほとんど会っていない。2007年に入ってからは、月1で会えれば万々歳というレベルだ。徒歩10分の距離に住んでいるのに。
もちろん寂しい。ものすごく。
会えないこともそうだし、ユチョンが本当に遠くに行っちゃいそうで。
けれども、寂しさなんかよりも、ユチョンを心配する気持ちの方がずっと大きい。
ユチョンは…東方神起のみなさんは、明らかに働きすぎだと思う。
テレビで東方神起を見かける機会は本当に増えたし、私の周りでも東方神起の存在を知る人は確実に増えている。
ただ、ファンでなければ、メンバーそれぞれの顔と名前まではさすがに一致しないみたいだけど。それでもかなりの進歩だと思う。
ユチョンたちの存在が知られるのも、メディアに出るのも、すごく嬉しい。…寂しさはあるけれど。
でも、1ヶ月も2ヶ月も…もっと長期間休みがないのは働きすぎだし、そもそも事務所の仕事の入れ方がおかしいと思う。
もう少しセーブしなきゃ、そのうち5人とも倒れちゃうよ…。
久しぶりに会うと、ユチョンが物凄く疲れているのがわかる。私の家に来ると、異様に寝るか全然寝ないかのどちらか。多分ストレスが原因。食欲もあまりない。
ユチョンは喘息持ちだから、体には特に気をつけなきゃいけないのに…。こんなんじゃホントに体壊すよ…。
*****
「美桜、全然会えなくてごめんね…。」
「気にしないで。大丈夫だから。仕事忙しいのわかってるから。」
2ヶ月振りにユチョンに会った。
ユチョンにとって、2ヶ月振りの休みだ。
なんだか体調悪そう…大丈夫かな。
私に会うよりゆっくり休む方が大切なんじゃ…。
「美桜…俺に会いたくないの?」
「え!?何言い出すの!?そんなわけないじゃない!毎日でも会いたいよ!」
「だって…大丈夫だからって。俺に会わなく………」
バタン!!!!!
「ユチョン!?どうしたの!?」
ユチョンは最後まで言葉を言い切る前に、いきなり私の目の前で倒れた。
「えっ!!すごい熱じゃない!!」
ユチョンの体は物凄く熱い。体温計で計ってみると、39℃もある。
病院でみてもらった方がいいよね。ユチョンは喘息持ちだし熱かなり高いし、市販の薬を私の判断で飲ませたら悪化させるかもしれない。
今日は平日だし、この時間ならギリギリ診察時間に間に合う。
でも…私一人じゃユチョンを連れていけない。タクシーだ!
プルル!!プルル!!
ケータイでタクシーを呼ぼうとした時、私のケータイがけたたましく鳴り出した。電話!?誰よ、こんな時に!
『もしもし?美桜?明後日の就活のガイダンスって…』
「れいちゃん!ごめん!今それどころじゃないの!」
『え?どうしたの!?何があったの!?』
「ユチョンがすごい熱なの!だから、タクシー呼んで病院に行こうと思って!」
『わかった。今、雅司と車で大学から帰ってる途中なの 。5分ぐらいでそっちに着くから!』
「ありがとう!」
私はれいちゃんに甘えて、片岡先輩の車でユチョンを病院に連れて行くことにした。
*****
ユチョンは私のベッドで眠っている。病院でもらった薬が効いているのか、38℃前半まで下がった。
インフルエンザではなかった。時期的に可能性は低いけど、とりあえずひと安心した。
ただ、お医者さんには『疲労が蓄積しています。体からのSOSです。ゆっくり静養するように。』と言われた。
やっぱり…今までよく倒れずにやってたよ…。
「美桜…」
「ユチョン、起きたの?気分どう?」
「だいぶ楽になったよ。…ごめん。」
「謝らないで。ユチョン最近私と会うたびに謝ってるよ(笑)」
「ごめん…。」
「ダーメ。もう謝るのはおしまいね。何か食べる??食欲ある?」
「いらない…。食べ物なんかいらないから、美桜にそばにいてほしい…。」
「うん。もちろん。ずっとそばにいるよ。」
ユチョンの頭を撫でながら私はそう言った。私がユチョンの頭を撫でるなんて、いつもと立場が反対だね。
ユチョンの体はもちろんだけど、私が一番心配しているのはユチョンの心だ。
倒れる直前の私たちのやり取り…。
『俺に会いたくないの?』
いつものユチョンなら絶対にあんなこと言わない。
私が「気にしないで。」と言うと、「ホントにごめんね。美桜大好きだ。」と言って思いっきり抱きしめてくれるのに…。少なくとも、あんな風に悪いようにとらえたりは絶対にしないのに…。
心と体をしっかり休ませることができなくて、精神的余裕をなくしているんだと思う。
ユチョンの仕事は、常に人に見られる仕事だ。だから、普通の仕事よりもストレスはかなり大きいと思う。
前に、ユチョンがぼそっと呟いたことがある。
『俺ってピエロみたいだね…。』
私が聞き返すと、笑って話題を変えた。
あれは、イメージを壊さないようにし続ければならないストレスが溜まりにたまっている…というSOSだと思う。
言われた瞬間はわからなかったけど、しばらく経ってそう思った。
どうかユチョンの心と体が壊れませんように…。そう願うことと、ユチョンと穏やかな時間を過ごすことしか私にはできない。
*****
夜中にユチョンは目を覚ました。
「美桜…」
「ん?」
「俺さ、明日仕事なんだ。」
「…うん。」
行っちゃダメだよ!ゆっくり休まなきゃ!…て言ってあげたいよ…。
「でも…」
ユチョンはボロボロ涙を流している。
「俺、もういやだよ…。音楽は好きだよ。ファンたちも大切だよ。でも…辛いよ…しばらく休みたいよ…」
ずっと我慢していたものを一気にユチョンは吐き出していた。
きっと私には気を使っていたのだろう。
『たまにしか会えないから、笑顔で楽しく過ごさないとね!』
そう言っていたユチョンの笑顔を思い出した。私は、「根掘り葉掘り聞くのもどうなんだろう…。普通にのんびりしてあげるのが一番かな。」と思って、あえて何も聞き出さなかった。
でも…聞いた方が良かったんだ…。
ユチョン、こんなになるまで何もしなくて本当にごめんね…。
私は泣いているユチョンの頭を撫でながら、心の中で何度もユチョンに謝っていた。
つづく
私たちが付き合うようになって2年と数ヶ月が経ち、私は就職活動を始めている。
高2の夏休みのホームステイで、自分の拙い英語を駆使してコミュニケーションをとった日々はとても楽しかった。だから、外国語を勉強して色んな人とお話したい…という安直すぎる理由で外大に入ったため、特にやりたい仕事もない。
外大にいるから外国語はそこそこ話せるけど(英語だけ。専攻のドイツ語は目も当てられないレベル)、語学を活かしやすい商社で働きたいとは思わない。
あ、そもそも私のレベルでは商社なんて絶対に無理だけど。
この時期になって、私は自分の進路をどうしたいのかをウジウジと迷うようになっていた。
そんな私とは対称的に、ユチョンは順調に日本でも認められていっている。
私が去年の全国ツアーの時に予感した通り、今年は武道館でライヴをしてしまった。ユチョンによると、来年はアリーナツアーをするかもしれないらしい。
自分の進路すらまともに決められない私とは、本当に対称的だ。
一言で言うと、順風満帆。
でも…最近、私たちはほとんど会っていない。2007年に入ってからは、月1で会えれば万々歳というレベルだ。徒歩10分の距離に住んでいるのに。
もちろん寂しい。ものすごく。
会えないこともそうだし、ユチョンが本当に遠くに行っちゃいそうで。
けれども、寂しさなんかよりも、ユチョンを心配する気持ちの方がずっと大きい。
ユチョンは…東方神起のみなさんは、明らかに働きすぎだと思う。
テレビで東方神起を見かける機会は本当に増えたし、私の周りでも東方神起の存在を知る人は確実に増えている。
ただ、ファンでなければ、メンバーそれぞれの顔と名前まではさすがに一致しないみたいだけど。それでもかなりの進歩だと思う。
ユチョンたちの存在が知られるのも、メディアに出るのも、すごく嬉しい。…寂しさはあるけれど。
でも、1ヶ月も2ヶ月も…もっと長期間休みがないのは働きすぎだし、そもそも事務所の仕事の入れ方がおかしいと思う。
もう少しセーブしなきゃ、そのうち5人とも倒れちゃうよ…。
久しぶりに会うと、ユチョンが物凄く疲れているのがわかる。私の家に来ると、異様に寝るか全然寝ないかのどちらか。多分ストレスが原因。食欲もあまりない。
ユチョンは喘息持ちだから、体には特に気をつけなきゃいけないのに…。こんなんじゃホントに体壊すよ…。
*****
「美桜、全然会えなくてごめんね…。」
「気にしないで。大丈夫だから。仕事忙しいのわかってるから。」
2ヶ月振りにユチョンに会った。
ユチョンにとって、2ヶ月振りの休みだ。
なんだか体調悪そう…大丈夫かな。
私に会うよりゆっくり休む方が大切なんじゃ…。
「美桜…俺に会いたくないの?」
「え!?何言い出すの!?そんなわけないじゃない!毎日でも会いたいよ!」
「だって…大丈夫だからって。俺に会わなく………」
バタン!!!!!
「ユチョン!?どうしたの!?」
ユチョンは最後まで言葉を言い切る前に、いきなり私の目の前で倒れた。
「えっ!!すごい熱じゃない!!」
ユチョンの体は物凄く熱い。体温計で計ってみると、39℃もある。
病院でみてもらった方がいいよね。ユチョンは喘息持ちだし熱かなり高いし、市販の薬を私の判断で飲ませたら悪化させるかもしれない。
今日は平日だし、この時間ならギリギリ診察時間に間に合う。
でも…私一人じゃユチョンを連れていけない。タクシーだ!
プルル!!プルル!!
ケータイでタクシーを呼ぼうとした時、私のケータイがけたたましく鳴り出した。電話!?誰よ、こんな時に!
『もしもし?美桜?明後日の就活のガイダンスって…』
「れいちゃん!ごめん!今それどころじゃないの!」
『え?どうしたの!?何があったの!?』
「ユチョンがすごい熱なの!だから、タクシー呼んで病院に行こうと思って!」
『わかった。今、雅司と車で大学から帰ってる途中なの 。5分ぐらいでそっちに着くから!』
「ありがとう!」
私はれいちゃんに甘えて、片岡先輩の車でユチョンを病院に連れて行くことにした。
*****
ユチョンは私のベッドで眠っている。病院でもらった薬が効いているのか、38℃前半まで下がった。
インフルエンザではなかった。時期的に可能性は低いけど、とりあえずひと安心した。
ただ、お医者さんには『疲労が蓄積しています。体からのSOSです。ゆっくり静養するように。』と言われた。
やっぱり…今までよく倒れずにやってたよ…。
「美桜…」
「ユチョン、起きたの?気分どう?」
「だいぶ楽になったよ。…ごめん。」
「謝らないで。ユチョン最近私と会うたびに謝ってるよ(笑)」
「ごめん…。」
「ダーメ。もう謝るのはおしまいね。何か食べる??食欲ある?」
「いらない…。食べ物なんかいらないから、美桜にそばにいてほしい…。」
「うん。もちろん。ずっとそばにいるよ。」
ユチョンの頭を撫でながら私はそう言った。私がユチョンの頭を撫でるなんて、いつもと立場が反対だね。
ユチョンの体はもちろんだけど、私が一番心配しているのはユチョンの心だ。
倒れる直前の私たちのやり取り…。
『俺に会いたくないの?』
いつものユチョンなら絶対にあんなこと言わない。
私が「気にしないで。」と言うと、「ホントにごめんね。美桜大好きだ。」と言って思いっきり抱きしめてくれるのに…。少なくとも、あんな風に悪いようにとらえたりは絶対にしないのに…。
心と体をしっかり休ませることができなくて、精神的余裕をなくしているんだと思う。
ユチョンの仕事は、常に人に見られる仕事だ。だから、普通の仕事よりもストレスはかなり大きいと思う。
前に、ユチョンがぼそっと呟いたことがある。
『俺ってピエロみたいだね…。』
私が聞き返すと、笑って話題を変えた。
あれは、イメージを壊さないようにし続ければならないストレスが溜まりにたまっている…というSOSだと思う。
言われた瞬間はわからなかったけど、しばらく経ってそう思った。
どうかユチョンの心と体が壊れませんように…。そう願うことと、ユチョンと穏やかな時間を過ごすことしか私にはできない。
*****
夜中にユチョンは目を覚ました。
「美桜…」
「ん?」
「俺さ、明日仕事なんだ。」
「…うん。」
行っちゃダメだよ!ゆっくり休まなきゃ!…て言ってあげたいよ…。
「でも…」
ユチョンはボロボロ涙を流している。
「俺、もういやだよ…。音楽は好きだよ。ファンたちも大切だよ。でも…辛いよ…しばらく休みたいよ…」
ずっと我慢していたものを一気にユチョンは吐き出していた。
きっと私には気を使っていたのだろう。
『たまにしか会えないから、笑顔で楽しく過ごさないとね!』
そう言っていたユチョンの笑顔を思い出した。私は、「根掘り葉掘り聞くのもどうなんだろう…。普通にのんびりしてあげるのが一番かな。」と思って、あえて何も聞き出さなかった。
でも…聞いた方が良かったんだ…。
ユチョン、こんなになるまで何もしなくて本当にごめんね…。
私は泣いているユチョンの頭を撫でながら、心の中で何度もユチョンに謝っていた。
つづく
by rin1119a
| 2013-09-23 18:43
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