熱情 第2話
2013年 12月 15日
「いらっしゃいませ!」
お洒落な内装の店内に入ると、甘いワッフルの香りと元気の良い店員さんの声に迎えられた。
責任者の教育がしっかりしているのだろう。この店の人の接客は、とても気持ちが良い。
一歩店に入っただけで、灯(あかり)の頑張りが伝わってくる。
「こんにちは。」
「あ、副店長の!すぐに副店長呼んできますね!」
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと顔出しに来ただけだから。」
俺の言葉より先に、その店員さんは灯を呼びに行ってしまった。
2か月前、俺の大切な彼女は副店長に昇格した。
販売職だから休みは不規則だし、変な客も来るだろうから、大変だと思う。
でも、彼女は辛い顔ひとつ見せず、愚痴ひとつこぼさず、明るく頑張っている。
その頑張りが実って、まだ2年目なのに副店長だ。
すごいよな…俺と同い年なのに。
俺は全然違う仕事をしてるけど、灯の頑張りはとても刺激になる。
俺も頑張らないと。
「ユファン!ごめんね、今日は予約のお客様がたくさんいらっしゃるから、いつもより時間がかかりそうなの。」
奥から呼ばれて出てきた彼女は、少し焦っている。
今はお客さん少ないけど、この後から忙しくなるようだ。
「いいよいいよ!少しでも早く顔を見たくて寄っただけだから。待ってるから、仕事終わったら連絡して。」
「うん。ごめんね。」
灯は俺の自慢の彼女。
明るいし、優しいし、可愛いし。
こんな彼女がいるなんて、俺は幸せだよな。
*****
*3年前*
昨日は楽しかったな。
みなさん、いい人だったし。
そういえば、昨日の夜中に田城さんから『パクさんが藤木さんの連絡先を教えてほしいみたいなんだけど、いい?』ってメールがきたな。
いいですよ…って送ったけど。
パクさん…クールな雰囲気で、何気ない仕草が絵になる人だったな。
ビックリしたのは、知らないうちに、カラオケの代金を全額支払ってくれたこと。
一体いつ払ったんだろう?そのあまりのスマートさに驚いた。
全額なんて申し訳ないから、私たち女子は自分の分だけでも払おうとしたんだけど…『いいよ。俺、社会人だし。』とにこやかに断られた。
彼とは、昨日ささいな話しかしなかったけど、私の何を気に入ってくれたんだろう?
モテるタイプだろうから、女の人には絶対に不自由してないと思うし。
ブーブー
あ…知らないアドレスからだ。
『パク・ユチョンです。』
件名には、今まさに考えていた人の名前が出ていた。
*****
彼女にメールを送ると、わりとすぐに返事が返ってきた。
彼女の雰囲気通り、顔文字や絵文字が結構使われていて、可愛らしいメールだ。
文面はしっかりした感じで、とても礼儀正しい。
文面を見る限り、1回二人で会うくらいならOKしてくれそうだな。
さて…どういう店がいいかな。
どういう感じの店に連れていっても、ニコニコ笑って『ありがとうございます』って言ってくれそうな雰囲気はあるけど。
次に繋げるためにも…頑張るか。
そう思って、俺はある人物に電話をかけた。
『もしもし…パクさん…何の用ですか?藤木さんの連絡先なら送ったでしょ?…ふわぁ~』
眠たそうな声だな(笑)あくびしてるし(笑)
「灯ちゃんさ、どんなもの好き?食い物の好みとか、店の好みとか。」
『えぇー何でも好きだと思いますよー。てか、早速名前呼びなんて馴れ馴れしいですねー…ふわぁ~』
「何でも…って、めちゃくちゃ好きなものくらいあるだろ。」
『そんなの本人に聞いたらいいじゃないですかー。藤木さんの好きなものっていえば…酒しか思い浮かばないですよー。』
「いきなり好み通りの店に連れていって、喜ばせたいんだよ。
お前に聞けば多少はわかるかと思ったけど…お前に期待した俺がバカだった。」
『うわ、ひどっ!藤木さんの連絡先教えたの俺だし、こんな朝早くから電話で話聞いてあげてるのに!』
「こんな朝早くから…って、もう12時前だぞ(笑)
お前、たいして強くないくせに、飲みすぎだろ(笑)灯ちゃん以外の女の子全員引いてたぞ(笑)」
しばらくクダラナイ話をして、電話を切った。
うーん…ビール以外は何でも好きみたいだから、飲み物充実してる店がいいかな。
その前に、都合聞かないと。俺、金曜か土曜じゃないと無理だし。
*****
この頃、俺は特定の女がいなくて、飲み屋で知り合った女を引っかける日々を送っていた。
そんな日々を2年ほど続けていた俺にとって、久しぶりに味わうトキメキだった。
女を落とす過程が楽しいからだと思っていた。
でも、今思うと、相手が灯だったから、あんなにソワソワしたのだろう。
どうして、灯を手放してしまったんだ?
どうして、あの時追いかけなかった?
どうして、『ごめん』の一言を言えなかったんだ?
ふとした時に、何度も灯を思い出し、自問自答してしまう。
つづく
お洒落な内装の店内に入ると、甘いワッフルの香りと元気の良い店員さんの声に迎えられた。
責任者の教育がしっかりしているのだろう。この店の人の接客は、とても気持ちが良い。
一歩店に入っただけで、灯(あかり)の頑張りが伝わってくる。
「こんにちは。」
「あ、副店長の!すぐに副店長呼んできますね!」
「あ、大丈夫ですよ。ちょっと顔出しに来ただけだから。」
俺の言葉より先に、その店員さんは灯を呼びに行ってしまった。
2か月前、俺の大切な彼女は副店長に昇格した。
販売職だから休みは不規則だし、変な客も来るだろうから、大変だと思う。
でも、彼女は辛い顔ひとつ見せず、愚痴ひとつこぼさず、明るく頑張っている。
その頑張りが実って、まだ2年目なのに副店長だ。
すごいよな…俺と同い年なのに。
俺は全然違う仕事をしてるけど、灯の頑張りはとても刺激になる。
俺も頑張らないと。
「ユファン!ごめんね、今日は予約のお客様がたくさんいらっしゃるから、いつもより時間がかかりそうなの。」
奥から呼ばれて出てきた彼女は、少し焦っている。
今はお客さん少ないけど、この後から忙しくなるようだ。
「いいよいいよ!少しでも早く顔を見たくて寄っただけだから。待ってるから、仕事終わったら連絡して。」
「うん。ごめんね。」
灯は俺の自慢の彼女。
明るいし、優しいし、可愛いし。
こんな彼女がいるなんて、俺は幸せだよな。
*****
*3年前*
昨日は楽しかったな。
みなさん、いい人だったし。
そういえば、昨日の夜中に田城さんから『パクさんが藤木さんの連絡先を教えてほしいみたいなんだけど、いい?』ってメールがきたな。
いいですよ…って送ったけど。
パクさん…クールな雰囲気で、何気ない仕草が絵になる人だったな。
ビックリしたのは、知らないうちに、カラオケの代金を全額支払ってくれたこと。
一体いつ払ったんだろう?そのあまりのスマートさに驚いた。
全額なんて申し訳ないから、私たち女子は自分の分だけでも払おうとしたんだけど…『いいよ。俺、社会人だし。』とにこやかに断られた。
彼とは、昨日ささいな話しかしなかったけど、私の何を気に入ってくれたんだろう?
モテるタイプだろうから、女の人には絶対に不自由してないと思うし。
ブーブー
あ…知らないアドレスからだ。
『パク・ユチョンです。』
件名には、今まさに考えていた人の名前が出ていた。
*****
彼女にメールを送ると、わりとすぐに返事が返ってきた。
彼女の雰囲気通り、顔文字や絵文字が結構使われていて、可愛らしいメールだ。
文面はしっかりした感じで、とても礼儀正しい。
文面を見る限り、1回二人で会うくらいならOKしてくれそうだな。
さて…どういう店がいいかな。
どういう感じの店に連れていっても、ニコニコ笑って『ありがとうございます』って言ってくれそうな雰囲気はあるけど。
次に繋げるためにも…頑張るか。
そう思って、俺はある人物に電話をかけた。
『もしもし…パクさん…何の用ですか?藤木さんの連絡先なら送ったでしょ?…ふわぁ~』
眠たそうな声だな(笑)あくびしてるし(笑)
「灯ちゃんさ、どんなもの好き?食い物の好みとか、店の好みとか。」
『えぇー何でも好きだと思いますよー。てか、早速名前呼びなんて馴れ馴れしいですねー…ふわぁ~』
「何でも…って、めちゃくちゃ好きなものくらいあるだろ。」
『そんなの本人に聞いたらいいじゃないですかー。藤木さんの好きなものっていえば…酒しか思い浮かばないですよー。』
「いきなり好み通りの店に連れていって、喜ばせたいんだよ。
お前に聞けば多少はわかるかと思ったけど…お前に期待した俺がバカだった。」
『うわ、ひどっ!藤木さんの連絡先教えたの俺だし、こんな朝早くから電話で話聞いてあげてるのに!』
「こんな朝早くから…って、もう12時前だぞ(笑)
お前、たいして強くないくせに、飲みすぎだろ(笑)灯ちゃん以外の女の子全員引いてたぞ(笑)」
しばらくクダラナイ話をして、電話を切った。
うーん…ビール以外は何でも好きみたいだから、飲み物充実してる店がいいかな。
その前に、都合聞かないと。俺、金曜か土曜じゃないと無理だし。
*****
この頃、俺は特定の女がいなくて、飲み屋で知り合った女を引っかける日々を送っていた。
そんな日々を2年ほど続けていた俺にとって、久しぶりに味わうトキメキだった。
女を落とす過程が楽しいからだと思っていた。
でも、今思うと、相手が灯だったから、あんなにソワソワしたのだろう。
どうして、灯を手放してしまったんだ?
どうして、あの時追いかけなかった?
どうして、『ごめん』の一言を言えなかったんだ?
ふとした時に、何度も灯を思い出し、自問自答してしまう。
つづく
by rin1119a
| 2013-12-15 12:29
| 熱情