プライド 第42話
2013年 09月 30日
*2010年6月 大阪*
去年は色々なことがあった年だった。
ユチョンは、ジェジュンオッパ・ジュンちゃんと共に本当に事務所を出てしまった。
さらに、裁判沙汰にまで発展している。
ユノオッパとチャンミンくんは事務所…というか前の事務所に完全に囲われているらしく、ユチョンたちが事務所を出る旨を伝えてからは二人に近づくことすらできないそうだ。
それが原因で、去年はアジアツアーが中止になり、今年の4月からは東方神起の活動が休止になってしまった。
ユチョンは「大丈夫!絶対に5人で新しいところでスタートするんだから!美桜は心配しないで!」て言っているけど、どう見ても全然大丈夫じゃない。
大丈夫な要素なんて何一つない。
見なきゃ良かったけど、ネットでは3人派と2人派に分かれて喧嘩状態だ。
特に今はユノオッパとチャンミンくんの動向が全くわからないから、2人のファンの悲痛な叫びもたくさん見る。
全く大丈夫じゃない。
ガチャッ
あ…ユチョン…。
「美桜ー!お待たせー!」
「…ユチョン、お疲れさま。」
そんな状況の中、ユチョンたち3人は、東方神起の派生ユニットとして東京ドームと大阪ドームでコンサートを行った。東京でも大阪でも大盛況だったらしい。
ユチョンは「ユノヒョンとチャンミンが解放されたらすぐに東方神起の活動をできるように、俺たちが頑張って居場所を整えておかなきゃ!」と言っていたけど、本当にまた5人で活動できるのかな。
しかも、あの社長さんがユチョンたち3人のドーム公演を黙認しているのは、あまりにも不気味すぎる。
自分を裏切った人間がスポットライトを浴びるなんて、絶対に許せないはずだ。
それに…あの時の言葉と冷たい目…絶対にこのままでは済まないよ…。
「美桜?どうしたの?何だか元気ない…。」
「そんなことないよ!疲れてるのに玄関でひき止めてごめんね!会社の人から頂いたケーキがあるから、一緒に食べようよ!」
ぎゅー
「本当に何でもない?」
ユチョンは私を抱きしめながら尋ねる。
ダメだ…こうされたら馬鹿正直に心配をぶつけちゃいそう…。
私のしている心配なんて、ユチョンが一番よくわかってるんだから、余計なこと言っちゃダメ。
「何でもないよ。でも…ユチョンの人気は相変わらずすごいな…ってちょっと寂しく思ってただけだよ。」
「美桜…寂しい思いさせてごめん。でも、俺が俺でいられるのは美桜の前だけだよ。」
「うん。」
私は嘘をついた。
寂しく思わないわけではないけど、私の心配をユチョンに伝える必要はないと思ったし。
昔は何でもユチョンに話していたけど、いつからかそうはしなくなった。
それが大人になるということなのだろうか。
私は、昔と同じユチョンの温もりの中でそんなことを考えていた。
*****
「寺川!2500万の投信(投資信託)まだ売れてないやんけ!なにボヤボヤしてんや!?」
色々あったのはユチョンだけじゃなかった。
私は4月から2年目社員となり、会社から課せられるノルマはさらに増えた。
去年、お客様と指導してくださった先輩のおかげで、私は新入社員の中でトップの営業成績を取り、本社から新人賞をもらった。
お客様に報告するととても喜んでくださったし、自分自身もやっぱり嬉しい。
けれども、2年目になったことと新人賞が原因で、私に課せられるノルマは異様に高くなった。
去年の私のノルマを100とすると、今の私のノルマは130。
正直キツすぎる…。いつもギリギリ到達するかしないかという状況だ。
そうなると、支店長から説教…というか罵倒される。
「お前!去年新人賞もろうたやろ!俺だってもろうたことないんやぞ!今のノルマくらいたいしたことないやろ!とっとと金巻き上げてこいや!お前女なんやから、男に使えんもんも使えるやろ!」
今契約してくれているお客様にはこれ以上負担をかけられないので、新規のお客様を獲得すべく私は毎日走り回っている。
今日も行かなきゃ!
支店長にひたすら頭を下げた後、私は荷物をもって営業車に乗り込んだ。
「さぁー頑張らなきゃ!」
コンコン!
気合いを入れた私の耳に、車の窓をノックしたような音が聞こえてきた。
音のした方を見ると、深田くんが難しそうな顔をして車のそばにいた。
もしかして、ずっと呼ばれてた?ぼーっとしてて気づかなかった!
私は窓を開けて深田くんに声をかけた。
「ごめんね!気づかなくて。何?」
「用件はないんだけど、ちょっと気になって…。
お前大丈夫か?お前のノルマ異常すぎるだろ。支店長は、自分が昔取れなかった新人賞をお前が…。お前には悪いけど女のお前が取って、しかも歴代の新人の中でもかなり良い成績だったのを妬んでるだけなんだ。それで、お前を叩き潰そうとして、異常に高いノルマを与えてるだけだ。まともに相手してると、お前潰れるぞ。」
「…ありがとう。心配してくれて…。でも大丈夫。深田くんの方がよっぽど酷いこと言われてるじゃない。深田くんこそ、まともに相手しちゃダメだよ。あなたみたいな優秀な人は、あんな人に潰されちゃダメ。」
「俺だけじゃなくて、お前もな。とりあえず、ほどほどにしろよ。また気晴らしに飲みにいこうぜ。」
「うん。ありがとう。外回りいってきます。」
深田くんにはあんな風に言ったけれど…。
既存のお客様への営業・新規開拓のための営業・支店長からのプレッシャー・必須知識の勉強…私は正直いっぱいいっぱいになっていた。
つづく
去年は色々なことがあった年だった。
ユチョンは、ジェジュンオッパ・ジュンちゃんと共に本当に事務所を出てしまった。
さらに、裁判沙汰にまで発展している。
ユノオッパとチャンミンくんは事務所…というか前の事務所に完全に囲われているらしく、ユチョンたちが事務所を出る旨を伝えてからは二人に近づくことすらできないそうだ。
それが原因で、去年はアジアツアーが中止になり、今年の4月からは東方神起の活動が休止になってしまった。
ユチョンは「大丈夫!絶対に5人で新しいところでスタートするんだから!美桜は心配しないで!」て言っているけど、どう見ても全然大丈夫じゃない。
大丈夫な要素なんて何一つない。
見なきゃ良かったけど、ネットでは3人派と2人派に分かれて喧嘩状態だ。
特に今はユノオッパとチャンミンくんの動向が全くわからないから、2人のファンの悲痛な叫びもたくさん見る。
全く大丈夫じゃない。
ガチャッ
あ…ユチョン…。
「美桜ー!お待たせー!」
「…ユチョン、お疲れさま。」
そんな状況の中、ユチョンたち3人は、東方神起の派生ユニットとして東京ドームと大阪ドームでコンサートを行った。東京でも大阪でも大盛況だったらしい。
ユチョンは「ユノヒョンとチャンミンが解放されたらすぐに東方神起の活動をできるように、俺たちが頑張って居場所を整えておかなきゃ!」と言っていたけど、本当にまた5人で活動できるのかな。
しかも、あの社長さんがユチョンたち3人のドーム公演を黙認しているのは、あまりにも不気味すぎる。
自分を裏切った人間がスポットライトを浴びるなんて、絶対に許せないはずだ。
それに…あの時の言葉と冷たい目…絶対にこのままでは済まないよ…。
「美桜?どうしたの?何だか元気ない…。」
「そんなことないよ!疲れてるのに玄関でひき止めてごめんね!会社の人から頂いたケーキがあるから、一緒に食べようよ!」
ぎゅー
「本当に何でもない?」
ユチョンは私を抱きしめながら尋ねる。
ダメだ…こうされたら馬鹿正直に心配をぶつけちゃいそう…。
私のしている心配なんて、ユチョンが一番よくわかってるんだから、余計なこと言っちゃダメ。
「何でもないよ。でも…ユチョンの人気は相変わらずすごいな…ってちょっと寂しく思ってただけだよ。」
「美桜…寂しい思いさせてごめん。でも、俺が俺でいられるのは美桜の前だけだよ。」
「うん。」
私は嘘をついた。
寂しく思わないわけではないけど、私の心配をユチョンに伝える必要はないと思ったし。
昔は何でもユチョンに話していたけど、いつからかそうはしなくなった。
それが大人になるということなのだろうか。
私は、昔と同じユチョンの温もりの中でそんなことを考えていた。
*****
「寺川!2500万の投信(投資信託)まだ売れてないやんけ!なにボヤボヤしてんや!?」
色々あったのはユチョンだけじゃなかった。
私は4月から2年目社員となり、会社から課せられるノルマはさらに増えた。
去年、お客様と指導してくださった先輩のおかげで、私は新入社員の中でトップの営業成績を取り、本社から新人賞をもらった。
お客様に報告するととても喜んでくださったし、自分自身もやっぱり嬉しい。
けれども、2年目になったことと新人賞が原因で、私に課せられるノルマは異様に高くなった。
去年の私のノルマを100とすると、今の私のノルマは130。
正直キツすぎる…。いつもギリギリ到達するかしないかという状況だ。
そうなると、支店長から説教…というか罵倒される。
「お前!去年新人賞もろうたやろ!俺だってもろうたことないんやぞ!今のノルマくらいたいしたことないやろ!とっとと金巻き上げてこいや!お前女なんやから、男に使えんもんも使えるやろ!」
今契約してくれているお客様にはこれ以上負担をかけられないので、新規のお客様を獲得すべく私は毎日走り回っている。
今日も行かなきゃ!
支店長にひたすら頭を下げた後、私は荷物をもって営業車に乗り込んだ。
「さぁー頑張らなきゃ!」
コンコン!
気合いを入れた私の耳に、車の窓をノックしたような音が聞こえてきた。
音のした方を見ると、深田くんが難しそうな顔をして車のそばにいた。
もしかして、ずっと呼ばれてた?ぼーっとしてて気づかなかった!
私は窓を開けて深田くんに声をかけた。
「ごめんね!気づかなくて。何?」
「用件はないんだけど、ちょっと気になって…。
お前大丈夫か?お前のノルマ異常すぎるだろ。支店長は、自分が昔取れなかった新人賞をお前が…。お前には悪いけど女のお前が取って、しかも歴代の新人の中でもかなり良い成績だったのを妬んでるだけなんだ。それで、お前を叩き潰そうとして、異常に高いノルマを与えてるだけだ。まともに相手してると、お前潰れるぞ。」
「…ありがとう。心配してくれて…。でも大丈夫。深田くんの方がよっぽど酷いこと言われてるじゃない。深田くんこそ、まともに相手しちゃダメだよ。あなたみたいな優秀な人は、あんな人に潰されちゃダメ。」
「俺だけじゃなくて、お前もな。とりあえず、ほどほどにしろよ。また気晴らしに飲みにいこうぜ。」
「うん。ありがとう。外回りいってきます。」
深田くんにはあんな風に言ったけれど…。
既存のお客様への営業・新規開拓のための営業・支店長からのプレッシャー・必須知識の勉強…私は正直いっぱいいっぱいになっていた。
つづく
by rin1119a
| 2013-09-30 11:34
| プライド