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JYJの妄想小説ブログです。妄想小説が苦手な方は閲覧しないでください。JYJも妄想も好きな方は是非どうぞ(^^)気に入ってもらえますように(*´∀`)


by 凛

プライド 第55話

寿司を二人で無言で食べる。
空気重いな…。

「…あの…どういう話を聞きたいですか?いくらでも話すことはありますが、パクさんの聞きたい話をしますので。」
またパクさんだ…。

「ねぇ…今俺たちしかいないんだし、その呼び方とその喋り方やめない?」
「え…」
「あ、銀行の話って堅苦しそうだから、話し方だけでもフランクにしてほしいな…て思って(笑)今だけでもお願い。」

美桜はほんの少し考える様子を見せると、頷いた。
「…う、うん…。」
よし、「はい」じゃなくなった。
「そうそう。じゃあ、入社してから今までどんな仕事してきたの?」

「私は、3年目の1年間以外は入社してからずっと法人営業をしてるの。法人…企業が私のお客様。企業の社長に、証券や保険や投資信託を買っていただいたり、融資…お金を貸すのが仕事。」
「へ、へぇ…」
なんか難しいな…。

「…ねえ、ユチョンの役ってどんな役なの?その役の仕事の話をしたら参考になるかな…て思うんだけど。」
「あぁ…中小企業相手に営業してる…って設定だよ。」
「じゃあ、ユチョンの役に立つ話をできそうね。良かった。」
美桜はホッとしたような笑みを浮かべた。

あ…笑った…。
俺の前ではいつも難しそうな顔してるのに、初めて笑ってくれた。
笑った顔昔と全然変わってない…。
しかも、ユチョン…て呼んでくれてる。

「どうしよっか…私の一日の流れを話したらいいのかな…。」
「うん。まずは一日の流れからお願い。」


*****

「…まあそんな感じだよ。参考になるといいんだけど。」
俺は、銀行員のあまりのハードさに驚いていた。
そんなハードな仕事なのに、辛くないのかな…。

「ありがとう。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「うん、もちろん。」
「銀行員の仕事って楽しい?」
俺の質問を聞いて、美桜はにこりと微笑んだ。

「辛いことの方が多いよ(笑)私の場合は、営業だからプレッシャーは大きいし。正直、2年目ぐらいまでは毎日辞めたいって思ってた(笑)」
2年目ぐらいまでは…俺と付き合ってた頃…。
やっぱりあの頃辛かったんだ…。

「でも、別に勉強とか労働時間の長さが辛いわけじゃないよ。」
「そうなの?」
「うん。辛いのは…会社の利益のために、お客様を犠牲にしてしまう場合があること…。」
「あ…それ脚本にすごくよく出てくる話だ。どういう意味?俺の役もさ、『お客様の利益にならない商品ばかり売りつけているだけの現実に嫌気がさしている』って設定なんだけど、あんまりイメージできなくて困ってるんだ…。」

美桜はしばらく考え込むと…。
「…わかった。私の忘れられないお客様の話をするね。多分…ユチョンの演技に役立つと思うから…。」
「ありがとう!」
「…私は、1年目~2年目まで大阪中央支店にいたの。そこのお客様はみなさんとても良い方で、新人で未熟な私に色んなことを教えてくれた。…そんなお客様の中でも特に私に良くしてくれた方が、藤原さんっていう人。小さな会社の社長。」

「私がいた大阪中央支店の支店長は、すごく高いノルマを要求してくる人で、達成できてない人は罵倒するの。私も、毎日のように罵倒された。『女なんだから体使って契約取れ!』て怒鳴られることなんか日常茶飯事だった。」
そんな大変な目に合ってたんだ…。全然知らなかった…。
美桜はいつも俺を心配するばかりで、自分の話なんて全然しなかった。

「私たち銀行員が売っている商品って、お客様に損をさせる可能性があるものばかりなの。それに、お客様の経営状態に合った商品を、合った金額買っていただく…てことに気をつけなきゃ、ただ損させるだけになってしまう。でも、その時の支店長は『客を殺してでも売ればいいんだ!』っていう考えの人だった。」
その支店長…人間として終わってる…。
でも、映画の登場人物にそんな奴いたな…。現実にもいるんだ…。

「まあでも、1年目はなんとかうまくいったの。お客様と指導してくれた先輩のおかげで、新人賞を頂けたし。」
新人賞…昔言ってたな。
二人でお祝いしたもんな。

「でも…その新人賞と2年目になったことが原因で、2年目から私のノルマは達成不可能なくらいの高さになった。」
2年目…美桜がそんな辛かったのに、俺は何にもしてやれてなかった…。

「そのノルマを達成させるには、その時の私のお得意様だけでは絶対に無理だった。…買っていただくだけなら可能だけど、お客様を損させてしまうから…。
だから、私は今までうちの銀行と取引をしたことのない企業を開拓するために、毎日走り回ってた。」

「でも…よく知らない人から商品を買うなんて怖いでしょ?だから、話を聞いてくれるお客様は確実に増えたんだけど、商品を買ってくれるまでいくのは時間がかかる。」
なんかあまりに辛すぎて、俺は多分まともに相槌ひとつ打てていない。

「そうなると、ノルマ達成にはつながらないでしょ?まだ商品買ってもらってないから。で、支店長から罵倒されるわけ。」
そんな一生懸命頑張ってるのに罵倒されるなんて…精神的におかしくなるだろ…。

「そんな私を心配して、藤原社長…さっき話した私を可愛がってくれた方は、色々な商品をかなりたくさん買ってくれた。…ハッキリ言って、藤原社長の会社にとっては損失にしかならないくらいの量を…。私は藤原社長に『無理して買わないでください。ノルマは大丈夫ですから。』て言ってた。でも…藤原社長は私を心配して買い続けた…。」

「私も、正直支店長からの罵倒で精神的に落ち込んでいたから、だんだん何の疑問ももたずに藤原社長に商品を買ってもらうようになってた…。」
美桜の声にだんだん悲しそうなトーンに変わっていく。

「そしたら…ある日…藤原社長の会社が倒産したの。」
「えっ!?倒産!?」
思ってもみない話に俺は驚いた。

「藤原社長の会社が倒産したのは、身の丈に合わない投資をして損をしていたのが原因のうちのひとつだった…。その『身の丈に合わない投資』をさせていたのが私。 」

「しかも、散々商品を買ってもらっておきながら、倒産した藤原社長の会社を助けることができなかった…。自分でも本当に最低だと思う。」
美桜の目には涙が浮かんでいる。その涙をこらえて美桜は言った。

「私は藤原社長のことを気にしながらも、自分の仕事をしていた。そんな私にある日電話がかかってきたの。」
「電話?」
「うん。いつも通りお客様を訪問しようとしたら、同期から電話がかかってきた…。」

美桜は黙りこんでしまった。
「…どんな電話だったの?」
俺はおそるおそる尋ねた。
「その電話は…」

「藤原社長が亡くなったことを知らせる電話だった…」

亡くなった…嘘だろ…。


つづく
by rin1119a | 2013-10-06 17:46 | プライド